われても末に あはむとぞ想う【第三話】

物語

帰ってきたじいちゃんはどこか様子がおかしかった。初めての落語で満足しなかったのだろうかと心配していたが、

帰ってくるなりボクに崇徳院って知っているか?と訪ねてきた。

ボクはどこかで聞いたことがある気がしたけど記憶はぼんやりしていて、ヒントにはならなかった。

そして自分の部屋の中で探し物を始めた。

不思議に思い

 

「なにを探しているの?」

と聞いてみた。

 

「んー・・・」

 

どうやら本人も分かっていないらしい。

何もしないのも居心地が悪くなって、

じいちゃんを横目にボクも「何か」の捜索活動に参加した。

 

ガサゴソ、ガサゴソ

 

しばらくするとじいちゃんの動きが止まった。

何かを持ってじっと見つめている。

それはばあちゃんが大切に持っていた箱の中からでできた

一枚のかるただった。

 

葬式で見た背中がまたそこにあった。

そしてあの時と同じように小刻みに震えていた。

ボクはかける言葉も見当たらず顔も見ずに、その場去った。

 

 

 

それから数ヶ月経った。

じいちゃんは体調を崩し、入院していた。癌が複数個みつかったらしい。医者はもう長くはないと家族に説明した。みんなは出来るだけいつもと同じように振舞おうとしていた。

だけど、あれだけ仲が悪かった母が気持ちが悪いぐらい優しくなっていた。

 

 

ボクは医者より先にじいちゃん本人にもう長くはないと伝えた、

というか隠す意味はないと考えた。

余命宣告をした時のじいちゃんはショックを受けるわけでもなく、どこかワクワクしているように思えた。

だからどうしても気になっていたことを聞いておきたかった。

 

「あの時言った「約束」ってなんだったの?」

 

ばあちゃんの時に聞けなかった後悔をもう二度としたくない一心に

思い切って聞いた。

 

その答えは案外すんなり返ってきた。

「俺よりも先に死なないこと」

これがばあちゃんと交わしていた唯一の約束だった。

そしてその「約束」をばあちゃんは紙を破るみたいに

笑顔でビリビリに破った。

 

 

そしてあの時、見つけたものを聞こうとしたが、

教えてくれそうにないので

少し遠回りして質問をしてみた。

 

「じいちゃん探し物は見つかったの?」

 

無口で頑固な口が珍しく口角をあげ

「もう少しで見つかる」

 

と言って、その一週間後この世を去った。

 

じいちゃんは最後までその札を持っていた。

そしてその札はボクに渡ってきた。じいちゃんの宝物。

花だらけの箱の中に入れてあげようかとも思ったけど

受け継ぐものだと考えた。

札握りしめ、涙で前が見えなくなりながら、

じいちゃんを見送った。

 

ボクは入院中の病室でもずっと、じいちゃんの手を握っていた。

どうしても離れたくなくて、

どうしてもまだ教えてもらわなきゃいけないことがある気がして。

でもじいちゃんは病院の真っ白な天井を見上げて、言った。

 

「お前は俺のようになるなよ」

 

じいちゃん、ボクはまたじいちゃんと

会いたいよ。

 

われても末に会わんとぞ思う。

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