われても末に あはむとぞ想う

物語

今回の物語は落語をモチーフにした

おじいちゃんと孫の物語です。

全三話です。

ぜひ最後までご覧ください。


 

 

 

ボクはじいちゃんの涙は一度も見たことがなかった。

それほど強く、男らしかった人を心の底から尊敬し愛していた。

 

元軍人のじいちゃんは他人に優しく、身内に厳しい人だった。

もっとも厳しかった相手は、ばあちゃんだった。

昔ながらの考えを貫き、本当に三歩後ろを歩かせた。いつも口調は命令に近く、亭主関白の教科書は家の中にいた。そんな命令口調にも、亭主関白にも、文句言わずニコッと笑顔で答えるのはいつもばあちゃんだった。

ボクは信じられなかった。なぜ、文句を言わないのか、なぜ、別れたいと思わないのか。すごく疑問を抱いていたが、答えを聞くのがどうしても怖く、最後の最後まで聞けなかった。そしてそのままばあちゃんはこの世との別れを迎えた。

ボクはじいちゃんとは違い、情けなくてちっとも男らしくない人間だった。

ばあちゃんの葬式にはたくさんの人が参列した。

近所の人、ばあちゃんの友人、じいちゃんの元会社の人達、

人望というものはこの瞬間が一番わかりやすい時かもしれない。

そう思いながら参列者にボクとじいちゃんは頭を下げた。

ばあちゃんは最後まで優しい笑顔だった。

苦しい顔とは程遠い、安心した顔をしていて、孫のボクが見ても美しかった。

 

 

そして、お経と共に焼香が始まった。

その最中気になったことが一つだけあった。

それはじいちゃんの背中が小刻みに震えていたのだ。

ボクは目を疑った。じいちゃんが泣いているのか?

そう思いながら焼香台の前へと向かった。

その時見た、じいちゃんの顔は今まで見たことがないほどの

しかめっ面で、怒りという感情が帯びていた。

そしてじいちゃんは動く気配がまるでしなかった。

最後の一人が終わった瞬間じいちゃんがすっと立ち上がり焼香台の前に行き、少し大きな声で

約束はどうした

しかめっ面のまま重たい一言を残し、そのまま出て行ってしまった。

家族は唖然としたが、誰もその背中を止められるものは

ここにはもういなかった。

 

 

田舎の鳥の声がよく響く家は長年住んだ痕を根深く残していた。

 

じいちゃんのお気に入りの場所は晴れた日の縁側。

そこで太陽からエネルギーを貰っていると小さい頃は信じていた。

悲しいお別れがあったあの日から、じいちゃんの人生はさらに無口な人生になってしまった。娘であるボクの母親とは折り合いが悪く、あまり話さない。

ボクは家族の中だと一番話す方だけど、今のじいちゃんとは話題を見つけるのが困難だった。

「じいちゃん、今日なにすんの?」

「・・・」

可愛い孫の気遣いの問いかけはじいちゃんの耳に入ることなくすーっとどっかの山に吸収されたみたいだ。

母が無理やり外に出そうとした日もあったが、石のように体を固め、全く動こうとしなかった。

よく口喧嘩に発展していた。

その姿はまるで中身がすっからかんの石像だった。

 

続く。

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